Pythonエンジニア列伝は、「Pythonエンジニアたちのインタビューを通して、Pythonを使う人達がどんな人なのか、どんな場面で活用しているのか、なぜPythonに出会ったかなどを紐解く」連載です。 連載はトピックごとになっているので記事単体でも読むことができます。この記事では、Pythonドキュメント日本語翻訳プロジェクトなどの翻訳者であるcocoatomoさんに、英語という語学面から見た技術文書の翻訳について聞きました。この記事はPythonエンジニア列伝第四回の5記事目です
バックナンバー
- その1…cocoatomoさんの紹介と技術ドキュメント翻訳との関わりや歴史を伺いました
- その2…Pythonドキュメント日本語訳プロジェクトの足跡を聞きました。
- その3…PEP454と翻訳にともなうグローバルなコミュニケーションのお話を聞きました。
- その4…プロジェクトへの参加方法とPythonコミュニティのメリットを聞きました。
技術的な文章を翻訳するということについて
翻訳が難しい表現とは?
はい、興味が出て来ました。翻訳でいうと私は今、Pyladies Tokyo*1のハンドブックの翻訳をしています。
翻訳の仕方を清水川さんに教えてもらって、必要なツールをインストールしようってみんな言ってるんで、それが終わったら考えます。
難しいですね。英語の文章がというよりも、ジェンダー問題ばかり書いてあって、もう、訳せないです、全然。
内容自体は「嫌なことを言われたりしたら報告しましょう」というような事なんですけど、どう訳すと良いかわからないことが多いです。
それは大変そうだ。たぶん歴史とかまで知らないと、そこまでは訳せないから、難しいですよね。でも、翻訳することでジェンダーの勉強ができるっていう感じですよね。 翻訳って単純な英語の能力だけではなくて、バックグラウンドが無いと意味のわからない表現があって、そこは難しいところですよね。 経験で言うと、Pipenvが口語体に近かったので、難しいと感じた部分は主にそこですね。どういうノリで言ってるのか分からないとか。 そういうことですね。Pipenvを翻訳している時には、free as freedomという表現で躓きました。
「フリーソフトウェアの『フリー』は、無料のfreeではなく自由のfreeです」という元になった表現があって、それを踏襲してのものだったんですけど。翻訳した時点では私はその表現を知らなかったのもあってリズムよく訳すのが難しかったんで、しょうがないから「自由としてのフリー」としています。
日本語としてはちょっと違和感があるんですけど、意味が伝わることを優先しました。元の表現を後でGNUのページ見たので、あ、ここ由来だったんだ、と気づきましたね。
ああ、でもそれで言うと、これはすごいな、って訳に出会う事もあります。昔『Geek Guide for Girls』ってタイトルのエッセーがあって。
女の子にオタクの良さを伝えるって文章なんですが、そのタイトルの頭文字がGで揃えてあって、英文だと面白いんです。
日本語訳をした時にもそこのタイトルを生かすように頑張って、「おたく男は乙女におすすめ」って全部「お」で始まるように語呂を合わせた訳をしたという話があって、それはすご過ぎだろって。
英語の学習に翻訳は役立ちますか?
翻訳って、人と意見交換しないと分かんない部分って結構あるので僕は見たいですね。基礎的なことなんですけども、『翻訳文っぽい翻訳をあえてしたほうが情報の抜け落ちがないからいい』という意見と、『意訳を多少して文を組み替えないと読みにくい』という2つの意見があるじゃないですか。
僕は結構、意訳して、情報落ちてるじゃんって指摘されることが多々あるんですよ。それってどっちがいいのかだとか、悩みが尽きない。
訳す文章にもよりますけど、その意見って、自分にとっては表面的な話なんですよね。
一番は、技術文書なので情報が全部、正確に漏れずに伝わるのが一番大事なんですが、英語をそのまま直訳したところでそれが伝わるかはまた別の話なので。
係り受けの主語と動詞などの要素が、日本語に直した時に離れ過ぎると訳が分からなくなるので、そこの距離に気をつけることなどの方を重要視しています。
少し、一般的な翻訳のノウハウ本とかも読んでみたりもしました。英文の構造から日本語の構造にするときに、係り受けの距離が遠くならないようにとか、話題を出す順番が書いてあるものは読みました。
翻訳へのモチベーションはどうやって保っているんですか?
そこは自分も不思議なところで、なんで続くのかなというのがまずあります。ですがやっぱり一番大事なのは「他人のために翻訳してる」とやる気がなくなるので、「自分のために翻訳する」事ですね。
単にここを知りたいとか、ここの英文の良い訳を考えたいとか、そういうためにやってます。 だからパズルみたいな感覚でたぶんずっと続いてるんだと思います。
翻訳は自分のためにやるって、いい視点ですね。翻訳に参加するきっかけとしてはコミュニティへの貢献という視点が大きいと思うんですけど、ずっとそのモチベーションを誰かのために保つのは難しいです。
例えば「売り上げ」とか目に見えた得につながるものではないですし、「ブランディング」と言っても後々にじっくり効いてくるものなので短期的にメリットが感じにくいです。その点、パズル的に楽しむというの素敵ですね。そういう人が続けられるんだという気がしました。
そうですね。でも、続かなくてもいいので、今使っているパッケージとかモジュールのドキュメントを訳すっていうのはトライしてみて欲しいです。
自分が動作を知りたいものが英語で、読みづらいから訳したとか、それぐらいでいいんです。仕事で関わらなくなったら、じゃあさよなら、というそのぐらいの気軽な気持ちでいいんだと思います。
次回の内容
次回は、cocoatomoさんご本人のPythonとの関わりやキャリアパスについてお伺いします。 次の記事(その6)はこちらから)。
連載記事一覧
- その1…cocoatomoさんの紹介と技術ドキュメント翻訳との関わりや歴史を伺いました
- その2…Pythonドキュメント日本語訳プロジェクトの足跡を聞きました。
- その3…PEP454と翻訳にともなうグローバルなコミュニケーションのお話を聞きました。
- その4…プロジェクトへの参加方法とPythonコミュニティのメリットを聞きました。
- その5…この記事です。
- その6…cocoatomoさんというPythonistaのこれまでの足跡を聞きました。
- その7…(最終回)cocoatomoさんの今後の展望や活動について・PyQについてききました。
エンジニア列伝アーカイブ
過去回も充実した内容です。次回配信までにいかがですか?
第一回:清水川貴之さん
- 手をいつでもあげられるように素振りをしよう 〜 Pythonエンジニア列伝 Vol.1 清水川貴之氏(前編) - PyQオフィシャルブログ
- ダメで当たり前なのでどんどんやる。アウトプットしていこう〜 Pythonエンジニア列伝 Vol.1 清水川貴之氏(後編) - PyQオフィシャルブログ
第二回:鈴木たかのりさん
- Pythonの人たちが集まって何かが生まれるといいな 〜 Pythonエンジニア列伝 Vol.2 鈴木たかのり氏(前編) - PyQオフィシャルブログ
- 自分が知らないすごい人に出会いたい! 〜 Pythonエンジニア列伝 Vol.2 鈴木たかのり氏(後編) - PyQオフィシャルブログ
第三回:石本敦夫さん